夢のヘラクレス

「誕生日プレゼントは、モノより生き物がいい!」
などと、息子が珍しく非草食男子的なことを言ってくれたので、ヘラクレスオオカブトを5月の連休に買ってしまった。あのカウンタックなどのスーパーカーと同じく、夢の「ヘラクレス」が、家で飼える時代がくるとは思いもよらなかった。

このヘラクレスオオカブト、これまで知っている日本のカブトムシのイメージとはけっこう違う。どちらかというと、フンコロガシに近いかもしれない。

夜通し木が軋むような音がしているな、と思って、息子と朝起きてみると、直径10センチはある丸太が、水槽の端から端まで運ばれていたりする。それだけではなく、分厚い木の皮がまるで鉛筆のように削られていたりする。

まるで、木こりだ。

あの尖った二本の角を土に突き刺して、丸太をぶんぶん振り回している姿を見てしまったこともある。じっと観察していると、なに見てんだよと、頭を闘牛のように上下する。ツノの挟まれようものなら、丸太のようにえぐられてしまうかもしれない。なかなかいい緊張感を醸し出してくれる。よほど、居心地がいいのか。図太いのか。蓋をあけていても、逃げようとはしない。そんなところも、およそムシらしくない。

こうして夏の黄金シーズンは、ヘラクレスが先に迎えた。少し遅れて息子の受験勉強が熱を帯びていった。ヘラクレスが働けば、息子もふんばった。それはまるでライバル関係のようにも見えた。

やがて9月になり、金色だった背中がすっかり黒色になると、ヘラクレスの方がいくぶん大人しくなった。人間でいえばおじいさんということらしい。そこで生きているうちに、ハレの舞台もいいだろうと、息子の幼稚園に貸し出しだすことにした。(あんまり元気すぎると危ないし、息子のいい経験にもなるし)

ところが10月になると、再び木こりとしてカムバックし、我が家に戻ってくる。
「ヘラクレスオオカブトって、不死身なの?」
そう息子に尋ねられたときには、
「そうだなあ。普通は6ヶ月くらい生きるものらしいけど、
 このヘラクレスは冬を越すかもしれないなあ」
と、笑ってこたえていた。

だからこそ、油断していたのかもしれない。息子の受験も、いよいよ佳境を迎えていたせいもある。
11月7日。息子の二次試験の結果が封書で送られてきた翌朝。ヘラクレスは、生きていた姿とまったく同じ姿勢のまま動かなくなっていた。その前々日くらいから、突然の寒波が襲っていたのに、つい後回しにしまっていたのだ。

数日後、息子と一緒に前の公園に埋めてから、ヘラクレスに敬礼。
しみじみと息子の成長ぶりを実感した楽しい7ヶ月間だったと思う。
それにしても、おもしろいやつだったな。
(内藤まろ)

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